朝鮮民主主義人民共和国の核実験にあたってのハンクネットの声明

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朝鮮の子どもたちに粉ミルクを支援している、日本人と在日朝鮮人朝鮮籍韓国籍)のボランティア団体「朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(略称:ハンクネット)」は、「朝鮮民主主義人民共和国の核実験にあたっての声明」を発表した。以下、転載する。


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西暦2009年6月18日
朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(ハンクネット)


朝鮮民主主義人民共和国の核実験にあたっての声明


先月25日に朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が実施した核実験に対し、日本・アメリカ両政府が制裁の強化を発表し、また韓国政府も含めて軍事的包囲網の強化も検討されている。我々、朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(ハンクネット) は軍事的緊張と制裁の弱者への悪影響を憂慮し、以下の様に各界に呼びかける。


<安保理と六者協議>


日本政府などは核実験を六者協議で交わされた合意違反だとしているが、2005 年9月19日に北京で発表された共同声明にもある通り、一連の六者協議で目指されていた「朝鮮半島の非核化」は南北朝鮮における非核化を言うのであって、朝鮮のみが義務を負うべきものではない。在韓アメリカ軍の核武装問題を脇において朝鮮のみが核無能力化の検証を求められる根拠は無い。現在の圧倒的な軍事力の差を鑑みても、不可侵の保証のないところでそれはあまりに非現実的・非対称的である。


そもそも朝鮮側の核開発計画の申告に対し、約束された経済協力が実施されておらず、関係諸国が行動対行動の原則を反故にしている。日本政府が拉致問題を口実に、国際的に約束した20万トンの原油供与を反故にしている事も、事態を一層悪化させている。


今回の核実験の直接の引き金となったのは朝鮮のロケット発射を非難する国連安保理の議長声明であるが、これは主権国家の宇宙利用の権利を侵害するものであり、理不尽と言うしかない。宇宙の平和利用は国際法上すべての国家に平等にあるとされており、先般の声明はそれを否定するものである。


また日米両政府や日本のマスコミは朝鮮の人工衛星打ち上げを国連安保理決議違反だとも主張しているが、安保理の判断が常に普遍的で公正だとは言えない。かつて「大量破壊兵器保有」という根拠の無い情報を元にアメリカがイラクを侵略したが、これに対し安保理は一言でも非を主張したことがあっただろうか。このような不正義・不道徳が不問に付されている一方で、朝鮮の行動はそれが国際法にのっとったものであっても問題にしているのだ。更にアメリカ及び「国連軍」と朝鮮は未だ休戦状態であることも忘れてはならない。


また、日本の国連外交のダブルスタンダードにも問題がある。日本は国連規約人権委員会での戦時性奴隷制(従軍慰安婦)問題に関する勧告を「法的拘束力が無い」として無視しているが、その一方で朝鮮を安保理決議違反と非難し、安保理において朝鮮に対する制裁強化を働きかけているのだ。


更に、核大国であるアメリカなどの安保理常任理事国が朝鮮などによる核拡散を本気で懸念するならば、まず自らが核軍縮を実行するべきであろう。


<核兵器と日本>


日本のアジア侵略に端を発した太平洋戦争の末期、アメリカは世界で初めて広島・長崎に原爆を投下し、植民地出身の朝鮮人も含む多くの人々を無差別に殺戮した。敗戦後の日本は、侵略を反省して近隣諸国との和解に取り組むとともに、アメリカによる原爆投下という非人道的行為を国際社会に告発し、核廃絶に取り組むべきであった。ところが日本は反共と「国体護持」の為にアメリカと安保条約やいわゆる沖縄密約を結んで核の傘に入り、東北アジアの緊張激化と核戦争の脅威を与えてきたのだ。


このような欺瞞に満ちた戦後日本が、侵略の過去を清算しないまま朝鮮に対して核兵器の非人道性を説いたところで、何の説得力もない。朝鮮の人々にとっては、日本こそがアメリカによる「核の脅威」を支えてきた張本人なのである。


2006年の朝鮮の核実験の際は、日本政府ばかりでなく、日本の平和運動反核運動勢力の多くは、こうした戦後の安保体制・核政策の欺瞞から目をそらし、朝鮮非難の声一色に染まった。アメリカ・フランス・インド・パキスタンなどの最近の核実験に対する反応との大きな違いは、日本人がいまだに朝鮮に対する植民地主義的な差別意識を根強く抱いていることのあらわれだろう。


日本の平和運動反核運動勢力は、朝鮮を一方的に非難する前に、朝鮮を核開発に追い込んだアメリカの核の傘と安保体制を解体できないでいる自らの力不足を反省すべきだろう。


<失われた平和主義>


一方日本の政界では今回の実験に過剰に反応し、自民党民主党の一部議員が朝鮮に対する「敵基地攻撃論」「核武装論」を唱えている。しかし、日本はすでに朝鮮に対して軍事的に圧倒的な優位に立っていることを忘れてはならない。


そもそも先制攻撃は言うに及ばず、実質的な軍隊である自衛隊の存在こそが明白な日本国憲法違反である。憲法前文及び九条に規定された武力の放棄と不戦の誓いは、アジア諸国に対する侵略への反省から生まれたものだったが、朝鮮戦争での対米協力を理由にそれはなし崩しにされてきた。朝鮮の核武装は、日本が侵略戦争への反省を忘れて、平和憲法をないがしろにし、軍事力を増強し続けてきたことの必然的結果でもある。


このことに気づくなら、核兵器の廃絶と東アジアの平和のために日本がとるべき道は、先制攻撃でも制裁強化でもないことは明白だ。朝鮮を始めアジア・太平洋諸国の人々を蹂躙した侵略戦争の歴史を真摯に反省するという日本国憲法の本旨に則って、自衛隊を解体し、日米安保条約を破棄し、在日米軍を撤退させることにより、周辺諸国の不信を解くよう努力する以外にはない。


特に朝鮮に対しては、植民地支配の反省と清算は全くなされておらず、それどころか日本政府・社会は戦時性奴隷制や強制連行の事実を隠蔽しようとしてきた。直接の被害者は高齢化が進み、彼ら/彼女らに罪を詫び、報いるための時間はあまり残されていない。日本政府はすみやかに朝鮮と国交を結ぶとともに、国家賠償と個人補償、被害の調査を行うべきである。


<制裁の影響>


日本政府は金融取引を中心に制裁の強化を検討するとしているが、これまでの経過からもわかるように、朝鮮政府がそれに屈服する見込みはない。制裁は問題解決になんら寄与しないどころか、弱者を苦しめるだけである。既に人と物資の移動が大幅に制限され、在日朝鮮人の親族訪問や仕送りに支障を来している。特に万景峰92号の日本寄港が禁止されているため、訪朝ルートは中国経由の飛行機便に限られ、高齢者の祖国訪問も困難になっている。植民地支配の結果、日本での生活を余儀なくされた在日朝鮮人を故国と切り離すような非人道的行為は、許されるものではない。


制裁は、朝鮮国内の社会的弱者に対する人道支援をも阻害している。我々ハンクネットは日本から朝鮮の子ども達へ粉ミルクの直接支援を行っているが、直行の航路が断たれているために中国経由で支援物資を送らざるを得なくなっており、数十万円の輸送費と数週間の時間が余分にかかっている。また、スタッフの朝鮮訪問の際の渡航費もかさむ。だが我々は日本政府がどのような障壁を設けようが、人道的必要性があるかぎり、支援活動を継続してゆく。


日本政府による制裁など一連の朝鮮バッシング・朝鮮総連在日朝鮮人に対する弾圧は、何より日本人の心を蝕んでいる。マスメディアによる政府発表の無批判な垂れ流しは、朝鮮人に対する日本人の差別意識を煽り、在日朝鮮人に対する暴言・暴行などの憎悪犯罪が懸念される。


マスメディアは第二次世界大戦前に大本営発表を垂れ流して日本人を侵略に駆り立てた歴史を、繰り返してはならない。日本政府の対朝鮮敵視政策に追従して朝鮮総連在日朝鮮人に対する憎悪を煽るようなセンセーショナリズムを排し、冷静な事実認識のもとに、排外主義的な言動に対する批判的観点を持って報道にあたるべきだ


最後に在日朝鮮・韓国人と良心的な日本人市民に訴える。我々がいま最も心がけなくてはならないことは、足元で憎悪犯罪が起こるのを防ぐことだ。たとえ国籍は別れていても、すべての在日朝鮮・韓国人は同じ歴史を共有する兄弟であり、日本人にとってもかけがえのない友人である。一つのマイノリティーに対する弾圧は、別のマイノリティーに対する弾圧を呼び、最後は社会全体がファシズムに飲み込まれていった歴史を思い起こそう。いまこそ沈黙を破り、連帯し、日朝の友好のために行動しよう。


<参考エントリー>
「核実験の日、ピョンヤンにて」―朝鮮はなぜ核実験をしたのか
人工衛星「光明星2号」の打ち上げと日本の朝鮮蔑視感情